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うつ病本人と家族が共倒れしないために。家族に「死にたい」と打ち明けられたら。  

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うつ病が家族関係に与える影響

私自身、気分障害があり、妻にもうつ病があり、共倒れしてしまった経験があります。妻が川でおぼれている大変だ(うつ病だ)と焦ってそのまま川に飛び込んで一緒におぼれてしまいました。冷静に対処していたらまた違った道があったのではと思います。例えば、まずは救急車に連絡を入れる、周りに助けを求める、溺れている妻に浮いて待つように指示する、ペットボトルやリュックなど、浮具になるものを投げ入れるなどです。

うつ病の妻を支える中で

「妻がうつ病で、これからもサポートしていくことに限界を感じている。もう疲れた・・・」
「何年もうつ病で将来のことが不安。つらい・・」

などの悩みを抱え、疲れ果ててしまいました。家族が苦しんでいるからといって、必ずしも自分がすべてを抱え込んで無理をする必要はないと思います。辛い、苦しいと思ったときは、いったん休憩することも重要なことです。

うつ病が長期に渡ると、支えるご家族まで心身ともに疲れ果て、結果として本人と共倒れしてしまうこともあります。ご家族が共倒れしないためには、①病気に対する知識を身につける、②焦らずゆっくりご本人の回復を待つこと、③本人と「よい距離感」を保つこと、④ご家族だけで抱え込まずに相談できる場を作ることが大切です。うつ病は、十分な休養や服薬などを通して時間をかけて回復していく病気です。

 ①病気に対する知識を身につける

うつ病が、どのように起きるのかについてはまだはっきりと分かっていませんが、感情や意欲は脳が生み出すもので、その脳のバランスが崩れ、脳の働きになんらかのトラブルが起きていると考えられます。具体的には、脳の神経細胞同士でやり取りされる神経伝達物質(セロトニン、ノルアドレナリン、ドパミン)のバランスの乱れが関係している可能性があります。

環境の変化などストレスが重なって気分が落ち込み、何をやっても楽しくない、何もする気が起きないというように憂うつで気分が落ち込むことが誰にでも起こりえますが、大抵は一時的なものです。このような状態がいつまでも続き、いつまでたっても回復しないような状態をうつ状態といい、これが2週間以上続くような場合はうつ病の可能性があります。また、うつ病は、長期間にわたり強い抑うつ症状が続くことで生活に支障が生じます。

治療を始めても症状に合う薬が見つかるまでに時間を要したり、回復までに数ヶ月~数年かかるなど、時間をかけて治療する必要がある病気です。また、うつ病の特徴として「朝は憂鬱だけど、夕方になると元気になる」などの「日内変動」があります。

インターネットなどで、容易にメンタルヘルスに関する情報を入手できるようになりました。心の病気そのものをわかりやすく解説したものや、ストレートな体験記や書籍などたくさんのものがあります。ストレス対処についても、さまざまな手法やコツが紹介されています、その中から自分に合ったものを選んで試みることができます。病気の知識を増やすことは、ご本人とのかかわりに役立つだけではなく、ご家族の不安を和らげることにも繋がります。無理のない範囲で病気について調べて、正しい知識を身につけておくことをおすすめします。正しい知識を身につければ、ご家族の不調に対して「これは病気の症状なんだ」とスムーズに理解できるかもしれません。

うつ病は「体」と「こころ」両方に症状があらわれます。

体の症状

身体に表れる不調…眠れない(眠りすぎる)、食べたくない(食べすぎる)、だるい・体が重い、目がかすむ、頭痛、腹痛、腰痛、胃腸の調子が悪い(便秘、胃もたれ等)、心臓が苦しい(動機、圧迫感等)、夕方より朝の方が気分や体調が悪い

一緒にいるときに、

・いつも完食していたはずの食事を残すようになった
・極端に食欲がなくなり、体重が減少したように見える
・最近はぼーっとしたり、夕方まで寝ていることが増えた
・よく眠れていないようだ
・身なりに構わなくなったように見える
・さまざまな身体的な不調を訴えている

といった形で症状が見えることがあります。

こころの症状

こころの不調…憂鬱、不安、イライラする、ひどく焦る、死んでしまいたい、楽しめない、周囲に申し訳なく感じる、自分が悪く思えて仕方ない、頭が働かない、集中できない、記憶力が落ちた、決められない、希望が持てない、マイナス思考、考えが堂々めぐりする、気力がわかない、身体が動かない、性欲がわかない、今まで簡単にできていたことができない、興味が持てない

家族とのやり取りの中では
・以前と比べて、笑うことが少なくなった
・突然泣き出したり、イライラを爆発させるなど、感情が不安定だ
・性格が急に変わったように見える
・最近は自分を責める発言ばかりになった。会社に行きたくないと言うこともある
・職場を無断欠勤したり、行方がわからなくなったりする

といった変化が見られるかもしれません。

うつ病悪化時は自殺リスクも

うつ病が悪化すると、自殺を考え行動に起こす危険があります。

・「死にたい」「消えてなくなりたい」といった自責感・絶望感が強い発言が増える
・自殺をほのめかしたり、「死」にまつわる発言が目立つ
・家出などの突発的な行動や、飲酒量の著しい高まりなどが見られる
・これまで、元気のなかった人が急に明るく振る舞う
・物を捨て始めるなど、身辺整理を始める
・具体的な自殺の方法を調べたり考え始める 自殺未遂に及ぶ
・遺書を残す、通帳のお金を移す、自殺のための道具を買おうとしているなどの行動が見られたら危険サインです。

こうしたサインが出ている場合は、大切な家族を守るためにも、すぐに病院や保健所に相談してください。「なんだか普段と違うな」と感じたら、うつ病のサインが出ていないか、体とこころの変化を注意深く観察してみてください。

※症状には個人差があり、上記はあくまで一例です。緊急性が高いときの対処法

すぐに対応しないと命に関わる状態だと思ったら、迷わずに専門機関に相談・連絡するようにしましょう。

・受診している医療機関がある場合は、すぐに主治医に相談する(入院治療も視野に入れる)
・今すぐにでも実行しそうなとき、もしくは暴れるなどして周りにも被害が及ぶ可能性があるときは、迷わずに警察に連絡する

電話や受診時のやり取りで先生に自殺を思いとどまらせるためのサポートをしてもらいながら、適切な治療につなげましょう。もしパニックになっていて自分では自殺を止められないと思ったときは、110番に電話をかけるという手段もあります。

②焦らずゆっくりご本人の回復を待つこと

うつ病の治療を始めたら、できるだけ休職などの対処をとり、ストレスを遠ざけてゆっくりした時間をすごすよう意識してください。仕事への復帰は、必ず医師と相談して慎重に判断しましょう。

あせらず自分のペースで、できることから始めることが復帰を成功させるための第一歩です。休むことも治療の一環だと認識して、焦る気持ちを和らげていくことが、しっかりとした休息を取るコツです。十分な休息をとるためには、ストレスを感じない環境づくりを心がけてください。仕事は一度休職し、うつ病を発症した要因となるものを遠ざけて、安心できる場所を確保しましょう。ひとりで抱え込んでしまい、そのためにオーバーワークになる傾向のある人は、目の前の事を周囲の人に頼み、家事は家族に依頼し、しっかり休める環境を作りましょう。家庭自体がストレスとなってしまう方は、実家に帰省する、入院するなども検討してみてください。

急性期・回復期・再発予防期が、それぞれどれくらいの時間を要するかは、人によって大きく変わります。回復までに数ヶ月~数年かかるなど、時間をかけて治療する必要がある病気です。

うつ病の回復には個人差がありさまざまです。また、よくなったり悪くなったりを繰り返すため、一時的に悪くなっても、あせらずに治療に向き合うことが大切です。「自分はいないほうがよい」「消えてしまいたい」といった気持ちになることがありますが、そんな気持ちになるのも病気が原因です。しっかり治療することで症状は改善します。
まずは、お互いに対する「こうあってほしい」「これをしてほしい」という思いを手放すことで、双方の負担が減ります。

例えば家事であれば、毎日やると決めていた掃除を週1回にすると決めたり、週の半分は自炊をお休みすると決めたり、ネットースーパーやヘルパーを利用したりすることで負担が減り、心に余裕ができます。

③本人と「よい距離感」を保つ

お互いの距離が近すぎても遠すぎても問題が生じます。距離が近くなりすぎたり、遠すぎたりすると、家族との間に気持ちのすれ違いが起こりやすくなる場合があります。気持ちのすれ違いが起こると、家族との衝突が増えることもあります。これではお互いに精神的に疲弊してしまい、共倒れになる場合があります。共倒れしないためには、当事者と適度な距離感を保って時間をつくることが重要です。距離が近すぎる場合は離れる時間をつくることがストレス発散につながり、うつ病の家族との関わり方や適切な距離感を見つめ直すきっかけになる場合があります。

家族間のストレスを少しでも和らげるために、適切な「距離感」を探していくことが大切です。

距離が近すぎる場合に生じる問題

・家族と関わっている時間が長い
・同じ空間にずっといる
・頼れる人が家族以外にいない

など、家族間の「距離が近すぎる」状態が続くと、うつ病になった本人と家族の気持ちや期待がすれ違いやすくなり、

うつ病によるものだと頭ではわかっていても、家事がなかなか進まないことに苛立ったり、「自分はこんなに頑張っているのに」「うつ病になる前はちゃんとできていたのに」とイライラしてしまったりすることもあると思います。

距離が遠すぎる場合に生じる問題

・家族とコミュニケーションを取る時間がほとんどない
・同じ空間で一緒に過ごすことがほとんどない
・悩みがあっても家族を頼ることができない

家族間の「距離が遠すぎる」状況には、うつ病になった本人が孤立感を深めたり、家族の理解や援助を受けにくくなったりするリスクがあります。自分が抱える苦しさがなかなか伝わらず、「うつ病である自分を家族は理解してくれない」とストレスを感じてしまうこともあります。

まずは、ご家族であるあなたの心身も、大切にしましょう。無理して抱え込まず、日常の中で自分に出来るサポートを行いましょう。ひとりの時間を作ってカフェで休憩をする、美容室に行く、毎週時間を決めてひとりで部屋にこもって好きなドラマを見たり漫画を読んだり、といった小さなことでも、日頃のサポートをする中でのストレスを軽減することができます。また、友人など第三者に話を聞いてもらうことで、思いつかなかった解決策が生まれることもあります。今後のことを考えていても議論が止まってしまい、苦しいと感じている人は第三者の視点を参考にするのも一つの選択肢です。

お互いが別々に「休息できる時間」「離れて過ごせる時間」をつくる工夫をしてみてください。ご家族の形がそれぞれ違っている以上、どのご家庭にも当てはまる正しいかかわり方や距離感はないと考えています。日々変化するご本人の症状によっては、状態に合わせて接し方や距離感を変える必要も出てくると思います。

④ご家族だけで抱え込まずに相談できる場を作る

共倒れを防ぐために、自分だけで抱え込まない。共倒れは、支える側が自分の限界を超えて支えようとしたときに起こります。人間誰しも、ひとりで支えられることには限界があります。ご家族だけで抱え込んでしまうと、うつ病のご本人との関係が行き詰まってしまったり、ご家族自身が疲弊してしまうこともあるでしょう。早い段階から周囲に頼ることがうつ病のご本人の回復への近道になることもあります。

医師や看護師、精神保健福祉士などの専門職に頼ることで、互いのストレスや悩みを打ち明けて楽になったり、間に入ってもらうことで気持ちのすれ違いを解消できたりすることもあります。医療機関を早く受診することができれば、重症化する前に適切な治療を受けることができます。一方で、受診が遅れたことで病状の悪化が進み、自宅療養が難しくなって入院になるケースもあります。その場合はリハビリや長期療養が必要となり、社会復帰までに時間を要することになります。

精神科・メンタルクリニック

医師から精神療法や薬物療法を受けることができます。ご自宅から通いやすい場所にあるか、評判はどうかなどを調べた上でクリニックを選ぶことをお勧めします。すでに受診し、うつ病の診断を受けている場合は、医師の処方やアドバイスを踏まえて、可能な範囲で治療をサポートしてください。

これまでご紹介したような症状がパートナーに見られ、かつパートナーがまだ受診をしていない場合は、「普段と様子がちがって心配だから、一度病院で診てもらわない?」など、傾聴・共感を意識しながら通院を勧めてみてください。ご本人の同意・リクエストがあれば、予定を合わせて一緒に通院するのも一つの手です。家族が通院同行することで、病気への理解を互いに深めることや家族間の悩みに対する解決策が見つかることもあります。家族としてどんなことができるか、定期通院の際に同行して、医師に相談してみるのも良いでしょう。

カウンセリングなどのメンタルケアサービス

奥さんや友人などの身近な人ではなく、医療や心理の専門家などの第三者の相談先を持つことで本音をうまく伝えられるようになって解決に至ることもあります。

カウンセラーが相談者と話し、抱えている悩みや問題点を整理し、一緒に解決できるよう関わっていきます。カウンセリングは精神科や心療内科のクリニックに併設されている場合や、開業しているカウンセリングルーム、オンラインのカウンセラーマッチングサービスなどがあります。自分の悩みを打ち明けやすいカウンセラーを見つけることなども、ひとつの選択肢としてご提案してみてください。

また、家族療法というアプローチが有効なことがあります。カウンセリングなどはひとりで行うイメージがあるかもしれませんが、2人で参加できるところもあります。近隣のカウンセリングルームやクリニックで、2人一緒にカウンセリングを受けられるところがないか探してみてください。

オンラインカウンセリングなら「cotree」 – オンラインカウンセリングのcotree(コトリー)

精神保健福祉センター

こころの悩み、精神疾患や障害に関するさまざまな相談ができます。
思春期の心の問題、ひきこもり、対人関係の問題、アルコール・薬物・ギャンブル等依存の問題、精神的な病気に関すること、自死遺族等の心の痛みなどの相談を受けつけられています。依存症については、依存症相談拠点として依存症相談員が相談に応じます。

精神保健福祉相談(広島市精神保健福祉センター)

広島市障害者相談支援事業

広島市にお住まいの障害のある方やそのご家族、地域の方、関係機関の方など、年齢や障害の種類を問わず、障害者手帳の有無に関わらず、様々な困りごとや悩みなどの相談を無料で受けられる身近な相談窓口です。障害のことや生活のこと、各種福祉制度のことなど、さまざまな相談に応じられており、プライバシーに配慮し、秘密は必ず守られます。※お住まいの地区によって担当地域が異なります。詳細はHPをご確認ください。 

障害のある方とそのご家族の身近な相談窓口 – 障害のある方へ

訪問介護

訪問介護はホームヘルパーが居宅を訪問して生活援助(家事援助)・身体介護・相談助言を行います。身体介護には食事の支援、入浴、排せつ、歩行の支援などがあります。生活援助には掃除、洗濯、食事準備などが含まれます。私は週2回2時間ほど利用させて頂いています。体調が悪いときに家事をしないといけないのは本当にしんどいですし、家事労働は毎日の事で終わりがないので、本当に助かっています。体調が悪いと家族としか話をしないケースが多いですが、ヘルパーの方とたわいもない話をするだけでも気持ちが楽になりました。

訪問看護

訪問看護とは、病気や障害のある方が自宅や地域で療養生活を送れるように、看護師が居宅を訪問して病状・障害状態の観察・精神的ケア・服薬管理、確認・コミュニケーション援助・家族へのアドバイス及び病状理解のための相談等が行われます。定期的に医療の知識を持った人に相談をできるのは大きいです。人と話すと、閉じ込めていた思いを打ち明けることができてほっとしたり、自分ひとりでは気づけなかったことを見つけたりすることができます。

広島市精神保健福祉家族会連合会 様

こころの病気を持つ方の家族が集まり、悩みを共有し合い、支え合うための団体です。家族同士がつながり、病気や治療、再発防止、社会復帰などについて学び合う場を提供されています。各区にはそれぞれの家族会があり、家族相談会や学習会も定期的に行われており、同じ立場の人たちと情報交換や支え合いができる場となっています。

広島市精神保健福祉家族会連合会

自助会/家族向けコミュニティサイト

うつ病の人の家族やパートナーがつながり、体験を共有する自助会、家族会やコミュニティサイトがあります。ほかのご家族やパートナーの経験を聞きたい、悩みを共有したいという方は、ほかのご家族の経験を聞きたい、悩みを共有したいという方は、家族会やコミュニティサイトの閲覧をお勧めします。
こころを休憩する会

みんなねっとサロン

うつ病患者の家族向けコミュニティサイト「encourage

勤務先の産業医、産業保健師、産業カウンセラーなど

企業等に所属している方は、業務調整や休職・復職について、勤務先の産業医、産業保健師、産業カウンセラーに相談しながら検討を進めましょう。職場での過剰な負荷や人間関係が問題の場合、職場側の人事担当者と仕事の量・質・場所の調整をしていき、復職後の再休職を防止します。具体的な調整の形は復職時期、試し出勤、時短勤務、異動などの配置転換、業務内容の調整です。

知人・友人・親戚の力を借りる

身近な知人・友人・親戚の力を借りることも一つの方法です。同じくうつ病やそのサポート経験がある人に相談したり、電話やカフェなどでゆっくり話を聞いてもらったり、本人も家族もいっぱいいっぱいの時に買い物を代行などの家事を助けてもらったり、ある程度病状が安定していれば本人に実家や親戚の家に一時的に住まわしてもう方法もあります。

家族に「死にたい」と打ち明けられたら。希死念慮との向き合い方

家族や大切な人に「死にたい」と打ち明けられたら、どんな言葉をかけて、どんな反応をすればいいのでしょうか。相手が求めている対応がわからず「どうして死にたいの?」と、パニックになってしまう方もいるでしょう。外的要因とは関係なく、希死念慮や自殺念慮が出てくることがあります。「死にたい」と口にするご本人さえ、死にたい理由がわからずに苦しんでいる場合もあります。ときには、病気の症状で死にたい気持ちが出てくる場合もあるとこころにとどめてください。

傾聴を心がける(本人の気持ちを尊重し、耳を傾ける)

死にたい気持ちは、誰にでも打ち明けられるものではありません。その気持ちが強いほど、言葉にするには勇気が必要です。「死にたい」と口に出したということは「私の死にたいほどつらい気持ちを、あなたに知ってほしい」ということでもあります。

「死にたい」と大切な人から言われれば、「どうして、なんで」と詰め寄りたくなることもあるでしょう。または「死にたいなんて言わないで!」と懇願したくなるかもしれません。

ただ、そのままぶつけてしまうと、自分の気持ちは理解してもらえない……と相手が心を閉じてしまう可能性もあります。自分の言葉で家族が取り乱す姿を見て、もう死にたい気持ちは誰にも言ってはいけない……とひとりで抱え込んでしまう方も中には存在します。

だからこそ傾聴が大切です。傾聴とは、相手の話をじっくりと共感的に聴くことで、相手の感情や考えを理解しようとする姿勢です。本人の気持ちを尊重し、耳を傾け、相手がなにを伝えようとしているのか、急かさず、否定せず、ありのままをきく姿勢を持つことがなにより大切です。死にたいと相談したときに、否定するわけでもなく、肯定するでもなく、ただ、「死にたいんだね。話してくれてありがとう」と言われて私は楽になりました。話題をそらしたり、本人を責めたり、安易に励ましたり、相手の訴えや気持ちを否定することは避けましょう。まず、心配していることを相手に伝える。悩みを真剣な態度で受けめ、相手の感情を否定せず、尊重して誠実に対応しましょう。話を聴いたらできるかぎり、「話してくれてありがとう」、「大変でしたね」、 「よくやられていましたね」というようにねぎらいの気持ちを言葉にして伝えてください。

相手の言葉をそのまま死ぬ」「生きる」の二択で捉えないことも大切です。死にたい」の言葉の中には、死にたい気持ちの他に、たくさんの感情が詰まっているはずです。

「自分がいる環境に不満がある」「この環境から逃げ出したい」「強い孤独を感じる」「誰かに気持ちを理解してもらいたい」

その「死にたい」の言葉の中には、なにがあるんだろう? 本当はどんなことを伝えたいんだろう? と、フラットな目線で相手の気持ちを想像してみてください。いったん止まって客観的に見つめることによって「死にたい」という言葉のプレッシャーとの距離が取れ、少し楽になるのではと思います。

「死にたい」の言葉の中にあるものを、直接本人にたずねてみるのも選択肢のひとつです。毎日死にたいと言うくらい、つらいことがあるんだね。例えば、どんなことがつらいと感じるの?」とたずねてみることで、相手の本心が見えてくることもあります。

安心できる環境を作る

「自殺の話題を出したら、死にたい気持ちがさらに強まってしまうんじゃないか」と不安を感じる方もいるでしょう。もちろん相手との信頼関係は必要ですが、自殺について聞くことは、相手の死にたい気持ちを理解するうえでとても大切です。むしろ、自殺の話題を避けることで自分の気持ちは、誰にもわかってもらえないんだと気持ちを閉ざしてしまう方もいるかもしれません。
自殺の話題自体を避けても、相手の中にすでに生まれている死にたい気持ちが消えるわけではないです。希死念慮は必ずしも理由とセットで出てくるわけではありません。理由もなく突然死にたい気持ちがわきあがってくることがあります。理由はないのに、死にたい気持ちが強まっている。どうしたらいいのかわからない」と、ご本人が一番戸惑っている可能性もあります。

ある人が溺れています。そこは底なし沼なのかもしれません。その人は必死にもがきます。もがくことでかえって沈んでしまうことがわかっていても、もがかないわけにはいきません。もがいているうちに、たまたまロープのようなものに手がかかりました。ところがつかんでみると激痛が走ります。それは硬いとげのついたイバラのツルだったのです。手からは血がしたたり落ちる。周囲はそれを見てびっくりします。周囲はイバラから手を放せと言います。当事者にとってイバラから手を放すことは正に死を意味するのです。

ではどうすればいいのでしょう。死の恐怖におびえたままだと、それがたとえイバラでも当事者は手を放すことはができないのです。当事者がイバラを放すことができるのは、手を放しても死なないという確証が持てたときだけです。ですから支援者は、まず当事者に安心できる環境を作ってあげることを考えて頂きたいのです。そうすれば結果として彼はイバラを放せます。その環境なしにイバラを放せというのは、当事者に死ねと言っているようなものです。p132 家族・支援者のためのうつ・自殺予防マニュアル

死にたいと言ったり、自分の体を傷つけたり、お酒を飲み続ける行為は周囲から見れば大変間違えた対処のように見えても、それは今の当事者にとっては生きるための努力であると理解する必要があります。そして、家族が悩みを打ち明けやすい環境を作っていく必要があります。悩みを抱えた人がすぐに元気になるわけではありません。心配していること、今後も相談にのることを伝えましょう。自然な雰囲気で声をかけ、あせらず温かく見守ってくだい。「なにかいいことを言わないと……」と言葉を探さなくても大丈夫です。希死念慮が出ているときは、その場を去らずに、ただ隣にいるだけでも「この人は一緒にいてくれるんだ」と安心できます。

自分の言動で、相手の未来がすべて決まると思わない

家族や大切な人に「死にたい」と打ち明けられた際に「ほんとうに、死んでしまうのではないか?」「自分の行動で、あの人の未来が決まってしまうかもしれない」と考える方もいるでしょう。

相手を気遣って言葉を選ぶことは、コミュニケーションを取るうえで大切ですが、自分の行動が相手の未来を決めてしまう……とプレッシャーを感じる必要はありませんひとりの人間が取る選択を、自分の言動ですべてコントロールすることは不可能です。

自分にできること、できないこと、すべきことを見極めて、他の頼りになる人にも助けてもらうことも必要です。ご家族が病気になると、自分が助けなくてはいけないと、意気込みすぎてしまうかもしれません。 そう思って苦しんでいる方に自分やご家族の周りに、ぜひ目を向けてみてほしいです。自分だけで抱え込むよりも、はるかにいい対応やアイデアをくれる人が、身近にいるかもしれません。

愛する人の自殺を完全に防ぐことはできません。ただ、愛する人が生きていてくれるだろうとその確率を高くすることはできます。「なんとかしなきゃ!」と気負わず、できる範囲で、サポートを続けてください。そして、ご自身を大切にしてください。